池袋暴走事故の教訓・高齢ドライバーの免許返納の現状を探る

池袋暴走事故とは

2019年4月19日、87歳(当時)の高齢ドライバーが、アクセルとブレーキを踏み間違い、当時3歳の幼い女の子と、その母親(当時39歳)二人を死亡させた他、9人に重軽傷を負わせる重大事故を引き起こしました。

車を運転していたドライバーも、胸を骨折する重傷を負って救急搬送されたこともあり、警察も逮捕・拘留を見送ったのですが、

実はこの事故の2日後に、神戸市のJR三ノ宮駅前で市営バスが横断歩道に突っ込み、20代の男女2人が死亡、4人が負傷するという事故が発生し、当時60代の市営バスの運転手はその場で現行犯逮捕されました。

通常、交通死亡事故では、発生直後に加害者が逮捕されることは珍しくありませんが、

池袋の事故では、ドライバーが元通産相の高級官僚だったり、4年前には瑞宝重光章を叙勲していたなどの経歴も明らかにされていたことから、この高齢ドライバーは「上級国民」として特別扱いを受けているのだ、というSNSでの書き込みが瞬く間に拡散していくこととなりました。

また、裁判では最後まで自らの非(アクセルとブレーキの踏み間違い)を認めず、車のせいにして言い逃れようと遺族感情を逆なでする態度が、いっそう世間の非難を集め、過剰なバッシングを生む結果となったのは記憶に新しいところです。

進む免許証の自主返納の動き

結果的に、この事故がきっかけで免許証の自主返納をする高齢者が増え、また各地の警察も返納を促す活動に力を入れるようになって、2019年の免許証の自主返納数は、過去最高を記録することになりました。

また、免許返納をした人の年齢別で見ると、70〜74歳が31.92%と最も多くなっています。次いで80〜84歳が21.00%となっています。免許返納を行っている人の6割以上が80歳までには免許を返納しています。70歳を超えると免許の更新の際に高齢者講習が必要になり、更新期間もだんだん短くなってくるため、70歳を超えて1回目や2回目の免許更新のタイミングで免許を返納する人が多いようですね。

※運転免許統計 令和3年版 警察庁交通局運転免許課

高齢ドライバーによる事故と免許返納の現状

しかしながら、高齢ドライバーによる交通死亡事故は、平成時代ほぼ横ばいに推移したのち、令和元年(2019年)、2年(2020年)と一時的に減少したものの再び増加傾向にあることが分かります。

また、75歳以上・80歳以上の免許保有者数はともに増加を続けており、令和4年の保有者数は、平成24年と比較して、75歳以上は約1.7倍、80歳以上は約1.8倍に増加しています。

運転免許統計補足資料1(警察庁)を元に作成

高齢者(ドライバー)の増加が、免許の返納数を上回っているのが原因ですが、ではなぜ免許返納が進まないのでしょう。考えられる理由としては、大体以下の通りだと思います。

  • 免許がないと不便だから
  • 自分はまだ元気だし、運転できるから
  • 車が好きだし、運転が趣味だから

実際、警察庁のアンケートによると、高齢ドライバーの約7割が運転免許証の自主返納を考えていない、という結果が出ています。これは、公共交通機関の発達した都心部ならともかく、そうでない地方では、免許のあるなしが死活問題になってくるからでしょう。

ただ、各自治体では高齢者の自主返納を促すために、事業者と連携して様々な支援策を講じているのも事実です。次にその一部を紹介します。

自主返納で受けられる特典と返納手続き

各自治体によって内容は異なりますが、自主返納することによって受けられる特典は大体以下の通りとなります。

自治体による各種特典

  • 公共交通機関やタクシー料金の割引や利用券の交付
  • スーパーやデパートでの買い物時に配送料割引
  • 銀行の預金金利が高くなる
  • 飲食代の割引

お買い物や銀行金利などは、あくまでも付則的なもの。やはりカギは、移動の代替手段である交通機関がどれだけ発達して便利になっているか、という点と、いかにお得に安心して利用できるかの二点だと思います。ライドシェアなどの制度も徐々に広がっているようですし、自家用車に頼らない移動手段の確立が最大の課題だと言えます。

各自治体による具体的な内容はこちらをご参照ください
高齢運転者支援サイト

次に、自主返納の手続きを見てみましょう。

返納手続き

免許の返納を申請するには、本人が最寄りの警察署や運転免許センターに行き、用意されている運転免許取り消し申請書に記入と押印をして免許証とともに提出するだけでできます。

運転経歴証明書を同日中に交付してもらいたい場合には、運転経歴証明書交付申請書を記入することで、写真の撮影の後、手数料1100円を支払って受け取ることができます。

警察署によっては証明写真要持参のところや同日発行不可のところもありますので、しっかり確認をしてから行きましょう。病気等で本人が直接申請に向かえない場合にも、代理人が必要書類を用意の上来庁することで返納手続きを行うことができます。

ひとつ注意しないといけない点としては、返納予定者が1人で自動車に乗って手続きに行ってしまうと、帰りの時点では免許を返納しているため、自分で車を運転して帰ることができません。必ず運転できる付き添いの方と一緒に行くか、公共交通機関やタクシーを使って手続きに行きましょう。

免許を返納する際の不安として「身分証明書が無くなる」という点も考えられます。

身分証明は「運転経歴証明書」を交付してもらえる

身分証明書については、免許証を返納すると**「運転経歴証明書」という、車が運転できないこと以外はほとんど免許証と同じものを新たに交付を受けることができます。**運転経歴証明書は顔写真付きの身分証明書として利用できる上、有効期限が存在しないため、更新の手間も掛かりません。

氏名や住所の変更も基本的に免許証と同じ手順で行うことができます。様々な特典のある運転経歴証明書ですが、失効してしまうと交付してもらうことができません。そのため、もう運転しないからと免許を放置するのではなく、きちんと期限内に返納をして運転経歴証明書を交付してもらいましょう。

また、この「運転経歴証明書」を持っていれば、多くの地域ではタクシーやバスなどの交通手段を割引価格で利用できます。

今まで自動車でしていた買い物や病院にタクシーやバスを使うとなると、お金が掛かるような気がするかもしれませんが、実は自動車を使用するのに掛かっていたガソリン代や税金・保険料などを考えると、利用頻度によっては車を維持するよりも安く済む場合もあります。地域に公共交通機関が走っていないという場合にはなかなか難しいかもしれませんが、ご一考されてみてはいかがでしょうか?

まとめ

人口動態を見ても、今後しばらくは、ドライバー全体に占める高齢者の割合は増すばかりでしょう。一方で、過疎化が進む地方・地域では、今以上の交通機関の発展は常識的に考えても難しいと思います。

こうした中で、自治体や自動車メーカー、ベンチャー企業がタッグを組み、高齢ドライバーが安全に運転できるような技術開発を進めることはとても意義のあることです。

ただ、そうした新技術が、年金収入に頼らざるを得ない高齢ドライバーの手に渡るのは、まだまだ先の話でしょう。

制度的な支援の拡充を進めながら、免許返納をしても快適な暮らしができるような社会の基盤を作っていくのが、やはり何にもまして重要なことのように思います。

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